東京高等裁判所 昭和60年(ネ)3550号 判決 1988年5月24日
控訴人
石塚昇治
右訴訟代理人弁護士
本村俊学
梶山公勇
被控訴人
株式会社門井工業
右代表者代表取締役
門井正光
右訴訟代理人弁護士
山田尚典
遠矢登
主文
原判決を次のとおり変更する。
被控訴人は控訴人に対し、別紙物件目録(二)記載の建物を収去して、同目録(一)記載の土地を明け渡せ。
被控訴人は控訴人に対し、昭和五七年二月一日から同五八年一二月三一日まで一か月金一八万二〇〇〇円、同五九年一月一日から同年五月九日まで一か月金二〇万八〇〇〇円、同年五月一〇日から右土地明渡しずみまで一か月金二〇万九〇〇〇円の各割合による金員を支払え。
控訴人のその余の請求を棄却する。
訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。
事実
一 控訴人は、「原判決を取り消す。被控訴人は控訴人に対し、別紙物件目録(二)記載の建物を収去して、同目録(一)記載の土地を明け渡せ。被控訴人は控訴人に対し、昭和五七年二月一日から右土地明渡しずみまで一か月金三六万九〇〇〇円の割合による金員を支払え。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決及び仮執行の宣言を求め、被控訴人は、控訴棄却の判決を求めた。
二 当事者双方の主張及び証拠関係は、次のとおり付加・訂正するほか、原判決事実摘示及び当審記録中の書証目録、証人等目録記載のとおりであるから、これらを引用する。
1 原判決二枚目表五行目の「期間経過」を「期間満了」と改める。
2 同三枚目裏六行目の「本件建物(各付属建物を含む)」を「別紙物件目録(二)記載の建物(以下「本件建物」という。)」と改める。
3 同五枚目表三行目の「別紙」から同四行目の「という。)」までを「本件建物」と改める。
4 同六枚目表九行目の次に行を改めて「被控訴人の本件土地使用の実態は、明らかに永続的であり、一時使用契約と目すべき事情は一切存しない。すなわち、昭和三六年に、当初の契約を締結した当時、本件土地は、近隣一帯の畑に囲まれた耕作されていない農地で、控訴人にはその具体的利用計画は立っていなかったこと、門井芳松は、本件土地で鉄筋業を始めるべくその本拠としてこれを賃借し、契約直後からその地上に木造建物三棟を建築し、これらをそれぞれ事務所、居宅、寄宿舎として使用し、芳松や従業員がその家族と共に居住を始めたこと、その後契約を更新し、昭和四一年に至り、同地を本店所在地として被控訴人が設立され、賃借権を承継して従前どおり本件土地の使用を継続したこと、同四三、四年頃本件土地上に現況の本件建物を建築し、同五一年に新たに賃貸借契約(更新)を締結したこと、本件建物は、主建物(本件建物1)二階が被控訴人の事務所、同一階が被控訴人代表者の祖母の住居で、他の付属建物が食堂、従業員宿舎、被控訴人代表者の母の住居、作業所、車庫などに使用され、企業体の全部とその関係者が一体となって本件土地及び建物を使用していること、さらに、控訴人と被控訴人代表者門井正光とは、家族ぐるみの特に親密な間柄で、また控訴人の自宅と本件土地とは歩いて一〇分位の至近距離に在り、互いに交流、出入りがあったので、控訴人は本件土地の使用状況を十分に知悉しており、本件紛争の起こる昭和五六年までは被控訴人に対し何らの異議も述べず、地代も領収してきたことなどがその実態である。これを要するに、本件賃貸借契約は、昭和三六年の契約当初から一時使用目的ではなかったのであり、遅くとも同四四年の本件建物建築段階で確定的な意味において普通建物所有目的の賃貸借となったものである。」を加え同一〇行目の「いずれも認める」を「そのうち、本件建物の建築時点及びその使用態様は右のとおりであり、その余は認める。」と改める。
5 同七行目表二行目の「のであり、」の次に「また、被控訴人が本件土地において最初に建物を建築したのは昭和三六年のことであり、現在の建物に建替えたのは昭和四三、四年頃のことであって、これらの建築については、控訴人の事前の承諾を得ているが、これが認められないとしても、その後の双方間の交流や控訴人の本件建物への出入り等から、極めて平穏かつ公然に本件土地及び建物の使用がなされたことが明らかであるから、」を加え、同四行目の「であって」を「ないし権利失効の原則からいって」と改め、同行の次に行を改めて、「ちなみに、控訴人は、本件控訴提起後、次々と自己所有の他の土地上に二階建アパートを新築し、その一は、本件土地に隣接する場所であり、また、歯科医師会の新規開業医院の適正配置指導もあって、控訴人が本件土地を子息の歯科医院開業用に使用するという可能性も必要性も実はないとみるべきである。」を加え、同五行目の「六 抗弁に対する認否」及び同六行目の「争う。」を次のとおり改める。
「六 被控訴人の主張に対する反論
昭和三六年に締結された当初の契約は、門井芳松の懇願によるものであり、右契約においても同五一年の契約においても、その契約書上には「一時使用」のための土地賃貸借たることが明記され、とくに後者には、「容易に取り毀し可能な飯場及び作業場並びに鉄材等の材料置場として、一時使用の目的で賃貸し、賃借した」旨が明らかにされている。そして、そのいずれの契約にあっても、およそ権利金の授受は一切なされていない。
したがって、芳松は、当初資材置場として賃借し、その賃貸借が一時使用の約であることを十分承知しながら、その範囲をこえて、地上建物を営業の本拠としたり、家族の一員を住まわせたりしたのであり、被控訴人もこれを承知のうえで、無断で本件建物を建築したのであるといわれなければならない。ましてや、被控訴人は、昭和五一年の契約においては、一時使用の材料置場としての賃貸借であることを知悉して契約締結をしたのであるから、それにもかかわらず、これを争い、普通建物所有目的であると主張するのは許されない。
ところで、控訴人は芳松に対しても被控訴人に対しても、その建物建築につき糺したが「鉄材が盗まれるのを監視するためのプレハブ建築で、直ちに撤去できる」旨の返事であったので、これを信頼し、期間満了を待ったのであり、決して放置していたわけではない。ところが被控訴人は、本件建物につき建築確認の手続きをとらなかったばかりか、昭和五三年一〇月二日に所有権保存登記を経由してその長期存続をはかり、期間満了後態度を一変して明渡に応じないだけでなく、本訴に至って、普通建物所有目的であると主張するに至ったのである。かかる被控訴人の態度は背信性の強いものであり、これを単に地上建物の使用実態を中心に判定するとすれば、控訴人の信頼を裏切る被控訴人の既成事実の容認という不合理な結果を招くことになるというべきである。
なお、控訴人は、被控訴人の主張するアパート建築の事実を認めるが、本件土地に隣接する土地上のものは、既存のアパートが老朽化したため、これを新築したにすぎず、又歯科医師会の指導なるものは、強制力があるものではなく、自己所有地で開業する場合は阻止できないとされている。控訴人としては、成人した息子二人の歯科医開業のため、本件土地を使用する必要性に迫られているのである。」
理由
一控訴人が、昭和三六年二月一日、訴外門井工業こと門井芳松(以下「芳松」という。)に対し、本件土地のうち二〇〇坪を賃料前払い、(第三者との)共同使用並びに賃借物、賃借権の転貸、譲渡の禁止の約定で貸し渡したこと及び請求原因一3の事実は当事者間に争いがない。
右争いのない事実にいずれも<証拠>によると、次の事実が認められる。
1 被控訴人代表者門井正光(以下「被控訴人代表者」という。)の父芳松は、門井工業の屋号により鉄筋加工、組立を業としていたが、昭和三六年頃人を介して知りあった控訴人に対し、その材料置場として本件土地を貸与してほしい旨申し入れた。
2 控訴人は、昭和二五年三月一日、自作農創設特別措置法に基づき本件土地(当時の地目は畑)の売渡しを受けたが、右申し入れ当時東京国税局に勤務していて、本件土地を空地にしており、芳松が相当困っている様子を聞知したこともあって、同人の申し入れを承諾し、ここに両名間に、同三六年二月一日付「土地一時使用契約書」と題する書面(甲第一号証)に基づき、控訴人が芳松に対し、本件土地のうち二〇〇坪を材料置場として一時使用させる、その使用料を一か月一坪につき金一五円(但し、同日別に作成された念書により右は金一〇〇円とされた。)、期間を昭和三六年二月一日から同三七年一月末日まで一か年間とする旨の賃貸借契約が締結された(右内容の契約書が取り交わされたこと自体は当事者間に争いがない。)。
なお、芳松は、同三六年二月一四日付で、控訴人に念書(甲第二三号証)を差し入れ、右契約書による期間を更新した場合、控訴人の要求があったときは、右の日より二か年後は異議なく右土地を明渡す旨を約した。
その後、両名間には、同三六年一二月二五日付前同様の「土地一時使用契約書」と題する書面(甲第二四号証)に基づき、控訴人が芳松に対し、本件土地のうち六〇坪を材料置場として使用させる、その使用料は一か月一坪につき金一五円、期間を昭和三六年一二月二五日から同三七年一二月二五日まで一か年とする旨の賃貸借契約が締結された。
3 芳松は、本件土地において、鉄筋の資材を搬出入させて仕事をしたが、その後間もなく、資材が盗まれるのでその監視をするための建物を同土地上に建築したい旨控訴人に申し入れ、その承諾を得てパネル構造のバラックを築造し、職人を泊めたり、事務所にしたりし、また芳松の子である被控訴人代表者やその義兄が同建物に居住したりしていた。
4 右賃貸借契約は、爾来昭和五一年に至まで、その間前記の如く被控訴人の設立、賃借人たる地位の承継があり、賃料が順次改定されたほかは、ほぼ従前どおりの内容で一年ないし二年ごとに更新された。
5 ところが、被控訴人は、事前に控訴人の承諾を得ないで、昭和四三年頃から同四四年頃にかけて、右土地上の建物を取りこわして本件建物を新築した。その二、三か月後知人から知らされた控訴人は、本件建物のうち作業所(付属建物3の工場)以外は撒去の簡単なプレハブ造りであるが、作業所は頑丈な鉄骨造りであると知り、その後一か月位して会った被控訴人代表者に対し、「プレハブならともかく、作業所は困るじゃないか。」と詰問したところ、同人は撤去費用がかかるなどと返答しただけであった。控訴人としては、被控訴人代表者との信頼関係をこわしたくない気持とその信頼関係に依拠して、期限が来て明渡しを求めたときは、これに応じてくれるものと信じ、それ以上追及することはしなかった。
6 しかしながら控訴人は、右のように、本件土地は一時使用の貸借なのに、知らぬ間に余計なものが建てられ、このままの状態ではそのまま居坐られるのではないかとの心配も拭い得ず、あわせて、昭和五六、七年頃には大学の歯学部に在学中の息子も卒業するので、共同住宅を建ててその一室で開業させたいと考え、同五一年五、六月頃、弁護士鈴木明に対し、右の危懼を述べて本件土地の明渡しについて相談したうえ、本件土地の貸借期間を五年とするが、その後は確実にその明渡しを受けられるような契約の締結を同弁護士に委任した。同弁護士は、この控訴人の意をうけて、従前の契約書等を調査し、かつ、本件土地を実地に臨んで検討し、微妙な点はあるが一時使用の賃貸借が継続しているとの現状認識のもとに、あらかじめ被控訴人代表者と電話により連絡をとって新しい契約内容の要点(とりわけ明渡しにかかる事項)を説明し、その了解をとったうえ、同年七月一日、控訴人とともに被控訴人代表者と会し、その結果、同日付「土地一時使用目的賃貸借契約書」と題する書面(甲第二号証)に基づき、両名間に大要次のような内容の賃貸借契約の締結をみるに至った。すなわち、右契約書は、冒頭に一時使用の目的で本件土地を賃貸借するものであることをうたい、その第一項に、賃貸借の目的として、「本件土地を容易に取り毀し可能な飯場及び作業場並びに鉄材等の材料置場として、一時使用目的で」賃貸借するものである旨、その第二項に、期間として、昭和五一年七月一日から同五六年六月三〇日までとし、但し、借主より右契約を更新して欲しい旨の書面による要望があった場合は、「貸主において更新を認めてもよいと判断した時は、」両者協議のうえ右契約を更新することができる旨、その第三項に、賃料は一か月坪四〇〇円の割合による金一〇万四〇〇〇円とする旨及び第五項として、借主は本契約に定めた目的以外に本件土地を使用してはならない旨を定めたものである。もとより、被控訴人代表者は、右契約書を読み、叙上の条項を諒知した上で、これに、署名捺印したのであった(右内容の契約書が取り交わされたこと自体は当事者間に争いがない。)。
7 被控訴人代表者は、昭和五一、二年頃、本件建物から妻子とともに他へ転居し、現在、本件建物には、義母と従業員数名が居住し、本件土地は、被控訴人の営業のため使用されている。
8 被控訴人は、本件建物を建築するにつき建築主事の建築確認を受けなかったが、昭和五三年一〇月一八日、本件建物につき同四四年八月三〇日新築を原因とする所有権保存登記を経由したものの、もとより控訴人の知るところではなかった。
9 控訴人は、昭和五六年六月頃、同五一年七月一日に約した本件土地の賃貸借の期間が満了したので、被控訴人代表者に対し、その明渡しをもとめたところ拒否された。そこで、やむなく、本件土地の賃料を一坪当たり七〇〇円に増額すること及び二年後に本件土地を返還すことを申し入れたところ、同人は、右賃料の増額については応じたが、本件土地の返還については拒絶した。
10 控訴人と芳松及び被控訴人との間においては、当初の昭和三六年の契約の時も、また、前記の昭和五一年の契約の際も、およそ本件土地の賃貸借に関し、いわゆる権利金の授受は一切なされていない。
原審及び当審における被控訴人代表者尋問の結果中、右認定に反する部分は、前掲その余の証拠に照らすと、にわかに採用できないし、成立に争いのない乙第一号証中には、控訴人と被控訴人の本件土地の賃貸借が昭和五七年八月二〇日から永久のものである旨記載されていることが認められるが、原審における控訴人本人尋問の結果によると、控訴人は、本件土地が現況宅地であるのに登記簿上では畑となっていたところ、これを宅地に変更するため、その手続きを司法書士に依頼したが、その際、同司法書士が便宜上作成したものが乙第一号証(農地法第五条第一項第三号の規定による農地転用届出書)であり、同書面には権利の設定、移転の時期、転用の時期等も架空のものであることが認められるので、乙第一号証をもって前記認定を左右することはできず、他に前記認定を覆えすに足りる証拠はない。
以上の事実によると、控訴人と被控訴人間の本件土地の賃貸借は、一時使用の目的のものであり、昭和五六年六月末日の期間満了により終了したものというべきである。
すなわち、控訴人が当初の昭和三六年の契約において芳松に本件土地のうち二〇〇坪を賃貸し、ついで六〇坪を賃貸したのは、同人の営業用資材の置場としてであり、それが一時使用の目的のものであったことは、右両名間で取り交わされた契約書上も明らかにされていたのみならず、芳松は、契約締結後、控訴人の承諾を得て本件土地上に建物を建築したが、その建物も資材の盗難を監視する目的のものであるとされ、しかもバラックであったことからも明白で、右バラックがたとい後に事務所等にも事実上使用されていたからといって、その事実を以て、本件土地の賃貸借がもともと建物所有の目的であった証左とすることは到底できない。ところで、芳松の右賃借人たる地位を承継した被控訴人は、右建物を取り毀して本件建物を新築したのであるが、なるほど本件建物は、バラックではなく、その種類、構造、面積等の点からみると、右盗難を監視する目的の建物の程度を超えているものというべきであるけれども、なお、作業所(附属建物3の工場)を除くその余の建物はすべてプレハブ造りで取毀しが容易というべく、作業所は鉄骨造りとはいえ、所詮囲いとクレーンより成るもので、これらの存在を以て、実態として一時使用目的ではなくなったと断じ去ることはできない。しかも、その建築については控訴人は承諾していないものであるばかりか、被控訴人は、その建築確認すら得ていなかったのである。控訴人は、後にこの建築を知って直ちに異議を述べたが、被控訴人代表者との信頼関係を大切にし、それ以上の追及をしなかっただけで、決してこの事態を放置したり、黙認したりしたわけではなかった。その証拠に、昭和五一年に至り、控訴人は、右信頼関係に依拠しながらも、被控訴人にこのまま居坐られるのではないかとの不安も払拭しきれず、本件土地の自己使用の必要性の予見しうる五年後の明渡を確保すべく、弁護士を立てて被控訴人代表者との交渉に入ったのである。その結果、昭和五一年七月一日弁護士が立会って作成された前記契約書に、本件土地の賃貸借が一時使用の目的のものであることを、その地上施設の具体的な種類、態様(それは当時の現状に大凡見合うものであることを注意すべきである。)を明らかにして、これ以上ない程に明記し、被控訴人代表者はこれを了解のうえ、同契約書に署名、押印したのである。このことは、従来いささか実態上あいまいさを帯びていた本件土地の賃貸借の一時使用目的たることを、あらためて相互に確認しあったもの以外の何ものでもないというべきである。したがって、従前の賃貸借が長期にわたって更新され、被控訴人の生業がその賃貸借に依存する形で事実上営まれて来、また、たとい控訴人と被控訴人代表者との家族ぐるみの親密な間柄がそこに形成されてきたからといって、それが当初から一時使用目的ではなく普通建物所有目的であったとか、昭和四四年の本件建物建築段階で確定的に普通建物所有目的になったとかとする根拠となるものでないことは明らかである。また同五一年の前記契約において定められた五年の期間が満了した後も同契約がなお更新されるものと被控訴人代表者が考えたとしても、それは単に同人だけの、しかも期待にとどまるものと断じなければならない(なお、叙上の次第であるから、本件にあらわれた一切の事情を顧みても、控訴人のこの期間満了による明渡しの請求を以て権利濫用と目すべきいわれはない。)。したがって、被控訴人は、本件土地を明渡すべきである。
ちなみに、一時使用を目的とする土地の賃貸借において、賃貸期間の満了を理由に土地の返還を請求する場合には、借地法九条、四条及び民法六一六条、五九七条に鑑みると、賃貸人に自己使用その他の正当事由があることを要件としないものと解され、一時使用目的か否かの判定にあたっても、控訴人の現在の自己使用の必要性の有無に特に立ち入って判断を加える必要をみないことを付言する。
二請求原因三1の事実については当事者間に争いがない。
三賃料相当損害金の額については、原審における鑑定人橋本達雄の鑑定の結果によると、本件土地の賃料の適正な額は、昭和五六年七月一日当時、月額一八万二〇〇〇円、同五九年一月一日当時、月額二〇万八〇〇〇円、同年五月一〇日当時、月額二〇万九〇〇〇円であることが認められる。もっとも、原審における鑑定人固武辰丙は、右の各金額をそれぞれ超える金三五万三五〇九円、金四三万三六九四円、金四三万六七六九円(但しこの評価時点たる鑑定時は昭和五九年五月一日)をもって適正賃料額と鑑定しているが、各鑑定書によれば、橋本鑑定は、前記控訴人が被控訴人代表者に対し昭和五六年六月頃提示し、被控訴人代表者との間の合意ができた増額賃料の月額一八万二〇〇〇円を基礎に置いてスライド方式の手法によったもので、その合理性をたやすく非難しえないのに対し、固武鑑定は、その手法はともかく、この合意賃料額を無視しており、すでにこの点においてにわかに採用しえない。他に橋本鑑定以上の適切な証拠は本件に見当らない。
四よって、控訴人の本訴請求のうち、本件賃貸借契約の終了(期間満了)に基づいて被控訴人に対し、本件建物を収去して本件土地の明渡しを求める部分及び昭和五七年二月一日から同五八年一二月三一日まで一か月金一八万二〇〇〇円、同五九年一月一日から同年五月九日まで一か月金二〇万八〇〇〇円、同年五月一〇日から右土地明渡しずみまで一か月金二〇万九〇〇〇円の各割合による賃料相当損害金の支払いを求める部分は理由があるから認容すべく、その余は理由がないから棄却すべきであり、これと異なる原判決は失当であるから右のとおり変更し、訴訟費用の負担につき、民訴法九六条、八九条、九二条但書を各適用し、仮執行の宣言は相当でないからこれを付さないこととして、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官髙野耕一 裁判官野田宏 裁判官川波利明)
別紙物件目録(一)
横浜市鶴見区下末吉六丁目三六六番一
宅地 971.81平方メートル
(実測 819.81、平方メートル)
別紙物件目録(二)
横浜市鶴見区下末吉六丁目三六六番地一
家屋番号 三六六番一
(主たる建物)
1 軽量鉄骨造亜鉛メッキ鋼板葺二階建事務所・居宅
床面積 一階 56.72平方メートル
二階 49.57平方メートル
(附属建物)
2 軽量鉄骨造亜鉛メッキ鋼板葺二階建倉庫
床面積 一階 33.05平方メートル
二階 33.05平方メートル
3 鉄骨造鋼板葺平家建工場
床面積 287.80平方メートル
4 軽量鉄骨造亜鉛メッキ鋼板葺二階建倉庫
床面積 一階 49.57平方メートル
二階 49.57平方メートル
5 軽量鉄骨造亜鉛メッキ鋼板葺平家建車庫
床面積 56.26平方メートル